量子論の歴史4 対応原理

原子からの光の射出について、古典的な説明とボーア理論による説明は一見したところ全く異なっていた。 射出される光の振動数は、古典的には

\omega_{n}=\displaystyle\frac{2\pi }{T}n

で与えられるのに対し、ボーア理論では

 \omega\propto\left(\displaystyle\frac{1}{m^{2}}-\displaystyle\frac{1}{n^{2}} \right)

で与えられる。後者は実験事実とよく合致していた(リュードベリの式)。

この違いをどう捉えるかというのは極めて重要である。まず、新しい理論は古い理論を包含しているはずだから、ボーアの式は適当な近似を取れば古典的な振動数に近づくはずである。実際、n\rightarrow n+\tau, \quad n>>\tauという遷移を考えると、

\omega =\displaystyle\frac{me^{4}}{2\hbar^{2}}\left(\displaystyle\frac{1}{(n-\tau)^{2}}-\displaystyle\frac{1}{n^{2}}\right)\approx \left( \displaystyle\frac{me^{4}}{\hbar^{2}n^{3}}\right)\tau

となり、たしかに古典的な式を再現している。

このように、両者の発光の機構は互いに異なるものの、量子数nが大きい古典的な領域では同じ結果を与えることが分かる。

また、この結果は次のように考えることもできる。

nが小さい領域というのは、まだ未知の領域ではあるが、そこでは種々の量が離散的になるということだけは分かっている。故に、光の振動数は差分的な式で与えられている。一方で古典論というのは連続的な領域であるから、この差分の式は近似的に微分で置き換えられる。これは一言で言えば、

新理論 : 古典論 = 離散的 : 連続的 = 差分的 : 微分

という対応が成立しているということである。そこでこれを逆手にとって、古典的には微分で記述されている種々の量を、差分的なものに置き換えていくことで、新しい理論が得られるのではないかと考えることもできる。このような置き換えのもとで、ハイゼンベルクは正準交換関係 \lbrack x,p \rbrack =i\hbarを導いた。