超弦のための特殊相対論2 テンソル

相対論で重要になるテンソルについて述べる。これは一見、添字が多く複雑に思えるが、実は方程式を見通しよく記述してくれる非常に良い性質を持っている。 以降\displaystyle{(x^ {0},x^ {1},x^ {2},x^ {3})=(ct,x,y,z)}と表す。こうすると、たとえば


    ds^ {2}=c^ {2}dt^ {2}-dx^ {2}-dy^ {2}-dz^ {2}= (dx^ {0})^ {2}-\sum _ {i=1}^ {3} (dx^ {i})^ {2}
と書ける。

さて、\displaystyle{(dx^ {0},dx^ {1},dx^ {2},dx^ {3})}というベクトルは、基底ベクトルを用いて


    d\boldsymbol{x}=\sum _ {\mu =0}^ {3}dx^ {\mu}\boldsymbol{e} _ {\mu}
と表せる。本稿では、アルファベットの添字は\displaystyle{1,2,3}のいずれか、ギリシャ文字の添字は\displaystyle{0,1,2,3}のいずれかを表すとする。 さて、同一のベクトルを異なる座標系で見ても、同じものを見ているのだから


    d\boldsymbol{x}'=d\boldsymbol{x}
となるはずである。しかし、成分\displaystyle{dx^ {\mu}}と基底ベクトル\displaystyle{\boldsymbol{e} _ {\mu}}はそれぞれ座標変換で変わる。 規格化していない基底ベクトルは

    \boldsymbol{e} _ {\mu}=\dfrac{\partial \boldsymbol{x}}{\partial x^ {\mu}}
と表せるから、偏微分の連鎖律より、

    \boldsymbol{e} _ {\mu}^ {\prime}=\dfrac{\partial x^ {\nu}}{\partial x^ {\prime\mu}}\boldsymbol{e} _ {\nu}
と変換する。 この座標変換を逆に見れば、当然

    \boldsymbol{e} _ {\mu}=\dfrac{\partial x^ {\prime\nu}}{\partial x^ {\mu}}\boldsymbol{e} _ {\nu}^ {\prime}
も成り立っていて、これと式(15)から

    dx^ {\prime\mu}=\dfrac{\partial x^ {\prime\mu}}{\partial x^ {\nu}}dx^ {\nu}
という変換則もわかる。\displaystyle{dx^ {\mu}}のような変換をするものを反変ベクトルといい、基底ベクトル\displaystyle{\boldsymbol{e} _ {\mu}}のような変換をするものを共変ベクトルという。

一方、\displaystyle{ds^ {2}}ローレンツ変換のもとで値が変わらなかった、このように、どの座標系で見ても値の変わらない量をスカラーという。つまり


ds^ {\prime 2}  =ds^ {2}

スカラーや、ベクトルを一般化した概念がテンソルである。スカラーは0階のテンソルであり、反変(or共変)ベクトルは反変一階テンソル(or共変一階テンソル)である。 他にも、たとえば二階の共変テンソル\displaystyle{C _ {\mu\nu}(x)}の変換則は、座標変換\displaystyle{x^ {\mu}\rightarrow x^ {\prime\mu}}で 


    C _ {\mu\nu}(x)\rightarrow C _ {\mu\nu}^ {\prime}(x')=\dfrac{\partial x^ {\alpha}}{\partial x^ {\prime\mu}}\dfrac{\partial x^ {\beta}}{\partial x^ {\prime\nu}}C _ {\alpha\beta}(x)
である。

テンソルの何がすごいか

実はこのテンソルを使うと、座標系に依らない形で方程式を書くことができる。 たとえばいま、ある座標系\displaystyle{x}で、なんらかの方程式を


    A _ {\mu\nu}=B _ {\mu\nu}
というテンソル方程式で書けたとする。これは運動方程式でもマクスウェル方程式でもなんでもよいのだが、とにかく両辺がテンソルで書かれている。 さてこの式は

    C _ {\mu\nu}=A _ {\mu\nu}-B _ {\mu\nu}=0
という形にも書ける。 実はもうこの時点で、相対性原理が成立するのはほとんど自明になっている。というのは、いま別の座標系\displaystyle{x'}でのこのテンソル\displaystyle{C' _ {\mu\nu}} とすれば、テンソルの変換則より

    C _ {\mu\nu}(x)\rightarrow C _ {\mu\nu}^ {\prime}(x')=\dfrac{\partial x^ {\alpha}}{\partial x^ {\prime\mu}}\dfrac{\partial x^ {\beta}}{\partial x^ {\prime\nu}}C _ {\alpha\beta}(x)
となるが、\displaystyle{C _ {\mu\nu}}は全成分ゼロだから、それをいくら足し合わせてもゼロのままである。つまり

    C _ {\mu\nu}^ {\prime}=0
が成り立つ。つまりテンソル方程式は座標系に依らずに成立する。