超弦のための特殊相対論1 光速不変とブースト
光速不変の原理
まず初めに、光速不変の原理から、ローレンツブーストと呼ばれる座標変換を導く。 光速不変の原理とは次のような要請のことである: ある座標系Sで光の速さがであったとき、Sに対し、方向に一定速度 で運動する座標系Sから見ても光の速さはである(に依らない)。
直感的には、Sでの光の速さはとなりそうなものだが、現実世界はそうはなっていないのである。これは非常に奇妙に思えるが、100年以上前に紆余曲折を経て提案され、実験でもよく確かめられているものである。また、この要請により電磁気学と古典力学が矛盾なく結ばれるようにもなる。ここでは原理として要請しておく。 この原理が何を意味するかというと、慣れ親しんだガリレイ変換は近似的にしか成り立っておらず、実はもっと一般的に成立する変換則が存在する、ということである。
ローレンツブースト
ではそのような変換則の形を求めてみる。 Sの座標をとし、Sの座標をとする。時刻で両座標系の原点が重なるとし、重なった瞬間にそこから球状に光を放射するとする。 光速不変の原理より、どちらの座標系でも光の速さはに見える。またそれぞれの座標系において、光の波面は
で表される。そこで、これを組み合わせて次のように書く。
ここで
を仮定すると、
これを満たすような変換則を求めればよい。もちろんガリレイ変換はこれを満たさない。この座標変換は、適当な行列を用いて
と書ける(これ以外の形、たとえばの2乗の項などが入ってくると、先の等式が満たせない)。また、ととをそれぞれ同時に入れ替える対称性があることに注意すると、変換行列が上のような形でなければならない。
両座標系の関係を特徴づけているは、X系の原点がX系から離れる速度である。X系の原点はであり、この点はX系からはと表されるから、
と書ける。よって
となる。 また、
よりが求められる。 結局座標変換は
別々に書くと
という形をしていることが導かれる。これはローレンツブーストと呼ばれる。
座標間の速度が光速に比べ十分小さいときにはガリレイ変換に帰着することも分かる。つまり、この世界で本当に正しいのはローレンツ変換であるものの、これまでは座標間の速度が小さかったので、ガリレイ変換で事足りていたということである。