量子論の歴史5 正準交換関係の導出
ハイゼンベルグの考え
ボーア理論における問題解決の手順は、「まず古典論で解く→そのうち量子条件を満たすもののみを選ぶ→対応原理で翻訳する」という流れであり、初手が古典的なためある意味中途半端な理論だった。ハイゼンベルグは、ボーア理論よりさらに進んで、はじめの定式化自体を量子論的に扱えるような方法を考えた。つまり、量子条件そのものに対応原理を適用するのである。
置き換えの規則
量子条件を書き換えるまえに、必要な道具の準備をする。
半古典的なレベルにおいて、一般の物理量を
とフーリエ展開する。nは軌道の量子数を表すものである(fは例えば位置座標などである)。この成分は、古典的な番目の高調波を意味する。一方この発光は、量子論でいうと遷移の際に出る光に対応しているので、
という置き換えができる。
そして前回の記事のように、微分は差分に置き換える:
これら二つの変換を合わせると、
という対応が見て取れる。この置き換えは、古典論的な世界から量子論的な世界へと移るために必要な鍵である!
正準交換関係を導出する!
さて、このような置き換えを量子条件に適応すると何が起こるかを見ていく。
まず位置座標をフーリエ展開すると
であり、ここで位置が実数であることから
が条件として成立している(これは、xがエルミートであることを意味している)。
一方で運動量は
となる。
これらを使うと、ボーアの量子条件は、
つまり
を用いれば、
ば、
となり、これは
という形に書き直せる。これはまさに行列の計算規則である!非対角成分がゼロになることもすぐに示せる。ゆえに、ハットで行列を表すことにすれば
と書ける。は単位行列である。これはまさに、我々が見慣れた交換関係である!正準交換関係は、歴史的には行列の交換関係として初めて与えられた。
5回に渡る記事で、導出したかった式がようやく出せた。
すると、との関数である一般の物理量の演算子に対して
が成立していることがわかる!これをハイゼンベルグの運動方程式という。