量子論の歴史1 電磁場

量子力学の教科書には、序盤からいきなり無限次元の複素空間がうんたらとか、固有値固有ベクトルがくんたらだとか、古典物理学とかけ離れたよく分からない用語や概念がいくつも登場する。その理論の建設がどのようにして進んだのかを、特に正準交換関係

\lbrack x,p\rbrack=i\hbar

が歴史的にいかに導出されたかを中心にして、複数回に分けて記事を書く。詳細な部分は省く。

量子力学の建設は、光と電子を両輪として進んでいったが、歴史的には光(電磁場)がはじめの手がかりだった(黒体輻射)。この記事では、光の量子化の式をまず考え、それを電子などにも使えるよう一般化する。

古典的な電磁場のエネルギーE

E=\int d^{3}x\left(\displaystyle\frac{1}{2}\epsilon_{0}\boldsymbol{E}^{2}+\displaystyle\frac{1}{2\mu_{0}}\boldsymbol{B}^{2}\right)

と書かれるが、体積Vの中にある黒体輻射の場合、実はこれは

 E=\sum_{\boldsymbol{k}}\left\lbrack \displaystyle\frac{1}{2}p_{\boldsymbol{k}}^{2}+\displaystyle\frac{1}{2}\omega_{\boldsymbol{k}}^{2}q_{\boldsymbol{k}}^{2}\right\rbrack

という調和振動子の形に書くことができる(ここでは計算過程は省くが、気になる方は 電磁場の量子化 - 物理とかなどを参照)。

ゆえに、プランクの式は

 E=\displaystyle\frac{1}{2}p_{\boldsymbol{k}}^{2}+\displaystyle\frac{1}{2}\omega_{\boldsymbol{k}}^{2}q_{\boldsymbol{k}}^{2}=n\hbar\omega_{\boldsymbol
{k}}

ということを意味する。

これは波動方程式を満たす電磁場の量子化であり、つまり特殊な系でしか成立しない。しかし、この式が位相空間における楕円の面積を与えていると解釈をすれば、

 \oint p dq= n\hbar

という、より一般的な形に書き直すことができる。これをボーアの量子化条件と呼ぶ。 この式は、周期的な運動にしか使えないという制限はあるものの、電磁場のみならず原子核内の電子などについても成立する。 これは、自由度ごとに分けて書くこともできる:

 \oint p_{i} dq_{i}= n_{i}\hbar

これはボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件と呼ばれる。実はこの式こそが、正準交換関係

\lbrack x,p\rbrack=i\hbar

の原型である。