量子論の歴史3 原子発光

原子から光が出るメカニズムについて、古典的な説明とボーア型の説明を併記する。

 

古典的説明

原子内を周回する電子は、加速度運動をするため電磁波を放出する。その電磁波の振動数は、

 

\omega_{n}=\displaystyle\frac{2\pi }{T}n

 

で与えられる。Tは電子の周回運動の周期で、nは自然数

 

ボーアの説明

一方、ボーア理論による振動数の計算は、古典的なものとはだいぶ異なっている。前回の記事にも書いた通り、原子模型に関してボーアが仮定したことは

 

・原子内の電子の軌道は、量子条件を満たす定常状態のみが許される

 

・定常状態にある電子は電磁波を出さない

 

・定常状態から別の定常状態に遷移するときにのみ光が射出される

 

というものだった。具体的には、n→mという定常状態の遷移(n>m)に関して、その際に出る光の振動数が

 

 \omega\propto\left(\displaystyle\frac{1}{m^{2}}-\displaystyle\frac{1}{n^{2}}\right)

 

で与えられることを、量子条件と古典的なケプラーの法則を用いてボーアは示した。これはリュードベリの式など実験事実と合致しており、また係数の値もよく合う。

 

さて、古典的に与えられる振動数と、ボーアの出した式は、一見したところ明らかに異なっている:

 

\omega_{n}=\displaystyle\frac{2\pi }{T}n

 

 \omega\propto\left(\displaystyle\frac{1}{m^{2}}-\displaystyle\frac{1}{n^{2}} \right)

 

この違いをどう捉えるべきか?

これこそが、新しい理論(量子力学)の重要な手掛かりとなっていることを次で見る。

 

 

 

 

 

 

 

量子論の歴史2 原子

前回は、電磁場のエネルギー量子化ののち、量子化条件が電子にも適用できる形に一般化されたことを書いた:

\oint p_{i}dq_{i}=n_{i}h

これが、ボーアソンマーフェルトの量子化条件である。実はこの式は、見慣れた正準交換関係

\lbrack x_{i},p_{j} \rbrack=i\hbar\delta_{ij}

の原型である。あと何回分かの記事で、この量子化条件がいかに正準交換関係に行き着くかを見る。

さて、光の舞台は黒体輻射であったが、電子の舞台は原子核である。古典的に考えれば、陽子を中心に周回する電子は、電磁波を発してエネルギーを失い、とても安定な状態では いられない。ここでボーアは、次のように考えた:

・原子内の電子の軌道は、量子条件を満たす定常状態のみが許される

・定常状態にある電子は電磁波を出さない

・定常状態から別の定常状態に映るとき、光が射出される

こうして、光子の考察から得られた量子条件が原子に適用され、離散化の考えが電子にも持ち込まれた。

量子論の歴史1 電磁場

量子力学の教科書には、序盤からいきなり無限次元の複素空間がうんたらとか、固有値固有ベクトルがくんたらだとか、古典物理学とかけ離れたよく分からない用語や概念がいくつも登場する。その理論の建設がどのようにして進んだのかを、特に正準交換関係

\lbrack x,p\rbrack=i\hbar

が歴史的にいかに導出されたかを中心にして、複数回に分けて記事を書く。詳細な部分は省く。

量子力学の建設は、光と電子を両輪として進んでいったが、歴史的には光(電磁場)がはじめの手がかりだった(黒体輻射)。この記事では、光の量子化の式をまず考え、それを電子などにも使えるよう一般化する。

古典的な電磁場のエネルギーE

E=\int d^{3}x\left(\displaystyle\frac{1}{2}\epsilon_{0}\boldsymbol{E}^{2}+\displaystyle\frac{1}{2\mu_{0}}\boldsymbol{B}^{2}\right)

と書かれるが、体積Vの中にある黒体輻射の場合、実はこれは

 E=\sum_{\boldsymbol{k}}\left\lbrack \displaystyle\frac{1}{2}p_{\boldsymbol{k}}^{2}+\displaystyle\frac{1}{2}\omega_{\boldsymbol{k}}^{2}q_{\boldsymbol{k}}^{2}\right\rbrack

という調和振動子の形に書くことができる(ここでは計算過程は省くが、気になる方は 電磁場の量子化 - 物理とかなどを参照)。

ゆえに、プランクの式は

 E=\displaystyle\frac{1}{2}p_{\boldsymbol{k}}^{2}+\displaystyle\frac{1}{2}\omega_{\boldsymbol{k}}^{2}q_{\boldsymbol{k}}^{2}=n\hbar\omega_{\boldsymbol
{k}}

ということを意味する。

これは波動方程式を満たす電磁場の量子化であり、つまり特殊な系でしか成立しない。しかし、この式が位相空間における楕円の面積を与えていると解釈をすれば、

 \oint p dq= n\hbar

という、より一般的な形に書き直すことができる。これをボーアの量子化条件と呼ぶ。 この式は、周期的な運動にしか使えないという制限はあるものの、電磁場のみならず原子核内の電子などについても成立する。 これは、自由度ごとに分けて書くこともできる:

 \oint p_{i} dq_{i}= n_{i}\hbar

これはボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件と呼ばれる。実はこの式こそが、正準交換関係

\lbrack x,p\rbrack=i\hbar

の原型である。

今日の疑問 12月

毎日最低一つ、その日疑問に思ったことを書きとめておく。括弧でくくってある文章は補足や追記。

 

12/6(金) 

弦理論では、超対称性を要請しないとフェルミオンを扱えないのに、量子力学ではそんなものを課さずとも電子の振る舞いを調べられたのはなんでなのか。

 

(弦理論はたぶん、超対称性がなくてもフェルミオンを扱える。ただ、超対称性を課さないとアノマリーが消せないらしい)

 

12/7(土)

弦が満たす波動方程式をクラインゴルドン方程式と見比べた場合、前者には質量項がないが、これは必ずしも弦が無質量であることを意味しない。どういうことか。

 

(質量項を含むポリャコフ作用は、共形不変性を持たなくなる)

 

12/8(日)

弦の統計力学を立てて、各エネルギー準位を取る確率を調べれば、現在の宇宙の種々の粒子の存在比を出せて、ダークマターの候補が絞れたりするんだろうか。

 

12/9(月)

弦の振動の波長は、ドブロイ波長という意味を持つか?

 

→持たない

 

弦の波動方程式は、クラインゴルドン方程式というよりはむしろプロカ方程式に似ているが、なぜポリャコフ作用はKG型か?

 

→プロカ型にしても、ポリャコフ作用と定数の差しかない

 

12/11(水)

D次元背景時空の計量を\eta_{\mu\nu}とし、そこから2次元世界面に誘導された計量をh_{ab}とする(ギリシャ文字、アルファベットはそれぞれ、D次元の座標と世界面の座標の添字を表す)。このときに、誘導計量は

 

h_{ab}=\partial_{a}X^{\mu}\partial_{b}X_{\mu}

 

となる。ここから考えれば、

 

h^{ab}=\partial^{a}X^{\mu}\partial^{b}X_{\mu}

 

になるが、一方でh^{ab}h_{ab}逆行列であることを踏まえれば、

 

 h^{ab}=\partial_{\mu}\sigma^{a}\partial^{\mu}\sigma^{b}

 

になるはず。どうやって整合性をとる?

 

( \partial_{a}X^{\mu}=\partial^{\mu}\sigma_{a}が成立してる)

 

 

12/12(木)

de Rham コホモロジーの定義を学んだ。ゲージ変換なんかがまさに当てはまるんじゃないかと思うが、他にどういう例があるのか知りたい

 

弦理論ことはじめ

弦理論とは、文字通り、種々の粒子を1次元の大きさを持った弦と考える理論のことをいう。この弦は、内部に運動の自由度を持つという点で点粒子とは異なる存在だが、では弦の内部の運動を決める作用(あるいは運動方程式)はどのようなものか?

 

いま、D次元ミンコフスキー空間を考え、座標をX^{\mu}とする。

弦は長さのみを持つから、それが掃く領域は2次元面になる。これを世界面という(相対論では、粒子が描く軌跡が世界線と呼ばれた)。

\tauは弦の時間、\sigma(0\leq \sigma \leq \pi)は弦の内部の空間パラメータとすると、 (\tau,\sigma)が世界面上の座標となる。ミンコフスキー空間における弦の位置は X^{\mu}(\tau,\sigma)で表される。

 

 

 


弦の掃く面積が最小になる

一つの方法としては、相対論で使われる作用からのアナロジーがある。相対論では、粒子が描く軌跡の長さを作用とし、それが最小になるという条件を課して運動方程式を導く。弦理論では粒子は点ではなく弦であるから、作用は弦が掃く面積を意味する:

S_{NG}=- \displaystyle\frac{1}{2\pi \alpha^{\prime}}\int d\tau d\sigma \sqrt{-h}

。これを南部後藤作用という(係数 \displaystyle\frac{1}{2\pi \alpha^{\prime}}についてはひとまず置いておく)。

 

 

 


波動方程式

もう一つの方法は、古典力学における弦の振る舞いを利用するものである。そこでは弦は定常波を作って振動しており、波動方程式を満たす:

\left(\displaystyle\frac{1}{c^{2}}\displaystyle\frac{\partial^{2}}{\partial \tau^{2}}-\displaystyle\frac{\partial^{2}}{\partial \sigma^{2}}\right)X^{\mu}(\tau,\sigma)=0

いま cは光速ではなく、弦の内部で振動が伝わる速さである。これは、質量項のないクラインゴルドン方程式と同じ形をしているから、作用は

S=\displaystyle\frac{1}{2\pi\alpha'}\int d\tau d\sigma \partial_{a}X^{\mu}\partial^{a}X_{\mu}

という形で書けると推測がつく(aは、\tau,\sigmaを表す)。この二つの導入は一見異なっているが、実は同じであることが(少し調べると)わかる。次回はそれについて書く。

相対論的量子力学と確率解釈

シュレディンガー方程式を相対論的なものにする過程で、波動関数に対する確率解釈が成立しなくなるという話について再考した。

 

めんどうなので簡潔に。

 

まずはじめに思ったことは、確率密度ρ(x)=Ψ*(x)Ψ(x)はガリレイ変換に対しスカラーであるものの、ローレンツ変換に対してはスカラーではないことである(ベクトルの一成分)。しかしこれは規格化まで考えると、ローレンツ変換(ポアンカレ変換)に対しスカラーとして振る舞う。そもそも、理論が相対論的になったからといってスカラー的な確率密度が定義できないというのがおかしい話である。

 

(一般の座標変換に対してもスカラーとして振る舞うかどうかはすぐにわかることではなく、ウンルー効果などによって変わってくる可能性もあるのでここでは置いておく)。

 

次に、よく見る説明として「相対論では、エネルギーの条件が満たされる限り粒子の生成消滅が許されるようになるので、確率保存の式が成立しなくなる」というものが挙げられるが、これは少しおかしいんじゃないかと思う。

 

非相対論的な量子力学は、粒子の生成消滅を「扱えない」のではなく「扱わない」のではないか。これはあくまで「生成消滅が生じない」という仮定であり、必然的な制約ではない。ニュートン力学と相対論では確かにエネルギーの表式は違う。しかしエネルギーの表式は、粒子の生成消滅を禁じるするほどの決定力は持っていないはずである(直感)。現に、ニュートン力学的なエネルギーの定義を用いて、エネルギー保存を満たしつつ粒子が生成消滅を起こすような過程を考えることは可能である。

 

情報熱力学1

 


体積2Vの箱の中に粒子が一つ閉じ込められています:

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つまりいまこの粒子はlog2Vのエントロピーを持っています(kTは略)。箱は、外部と熱平衡状態にあるとします。ここで、粒子にぶつかることなく箱の真ん中に仕切りを入れて、体積Vの2つの部屋に箱を分けるとします。すると粒子はどちらかの部屋に入るのでその体積はVになります:

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さてこのとき、この系のエントロピーはlogVに減るのでしょうか?粒子が存在しうる領域の体積は2Vのままですが、実際に動きうる体積は明らかにVに減っています。エントロピーはlogVとlog2Vのどちらでしょうか?

「左右どちらの箱に入っているかは分からないといえど、動き回りうる体積がVなのは間違いがないのだから、状態数もVとしてlogVとするのが自然だ」というのが僕の個人的な考えです。ただこうすると、熱力学第二法則はどうなるんだという話に当然なります。仕事をせずにエントロピーが減っているわけですからね。

 


そこで、log2Vのままではないかとなるのですが、これもこれで少しおかしいことが起きてしまうのです。それは次のような思考実験で見えてきます。

 

出木杉-のび太のパラドクス


いま、出木杉くんとのび太くんの2人がいます。

彼らの前に体積Vの箱が2つあり、片方に1個の粒子が入っています。2人は、どちらの箱に粒子が入っているか知っています。いま粒子のエントロピーSはlogVといえますね:

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さて、この状態で時間が経つにつれ、のび太くんはどちらの箱に粒子が入っているか、忘れてしまいました。一方出木杉くんはきちんと覚えていたとします:

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すると出木杉くんから見るとS=logVのまま。ところが先ほどの議論を踏まえるならば、のび太からはS=log2Vになってしまったことになりますね。のび太は、2つの箱のどちらかに粒子があることはわかっていますが、どちらにあるかは知らない(忘れてしまった)わけですから。上記の過程で箱と粒子の状態自体は全く何も変わっていないのにも拘らずエントロピーが変化してしまったことになり、これは明らかにおかしいことになります。

 


以上の内容を要約します。

元々の問いは

「真ん中の仕切りによって体積Vの2つの部屋に分けられてはいるが、どちらにあるかは分からない1粒子のエントロピーはlogVかlog2Vか?」

でした。

logVとすれば、第二法則と合わなくなる。一方でlog2Vとすれば、のび太エントロピー計算がおかしくなる。どうすればいいのか?

 


今回は、以上の問題提起のみを記します!笑

どうやって解決するかは、次回に書きます。