一般相対論

一般相対論について簡潔な解説を書きます。一般相対論というのは初見では難解そうに思えますが、実は非常にシンプルな理論です(方程式を解くのは大変ですが)。ここでは基本的な概念の解説と、測地線の方程式/アインシュタイン方程式の導出、そのあとは宇宙論ブラックホールなどなど、扱えればと思います。いつになるやら分かりませんが。なるべく平易で、短く簡潔な文章を心がけます。気が向いたときに少しずつ加筆と修正をします。質問や文句などはコメントにお願いします

重力の理論

一般相対論の出発点は極めて明確であり、それは特殊相対論(慣性系の理論)を、より一般の非慣性系へと拡張することである。ローレンツ変換のみならず、一般の座標変換(極座標とか)を取り入れるということ。面白いことに、この試みはただちに一般相対論が必然的に重力理論になることを示唆する。等価原理を認めれば、非慣性系での物体の加速は、(たとえそうでなくても)重力によるものと解釈できるからである。

さて、たたき台となるニュートン力学には、重力について重要な式が二つある。まず一つは運動方程式

	m\ddot{\boldsymbol{r}}=-\nabla \phi \tag{1}
であり、もう一つはポアソン方程式

	\Delta \phi=4\pi G\rho \tag{2}
である。\rhoは物質の質量密度分布である。
このふたつは、明らかに一般相対性原理の要請に合わない。つまり、一般的な座標変換に対し方程式の形が変わる(ガリレイ変換の場合には問題はない)。それどころかローレンツ共変ですらない。式(1)はそもそも成分が3つしかないし(相対性原理を満たすならば、方程式は少なくとも4つないといけない)、ラプラシアンも形が変わる。

共変微分

さて、まずは相対性原理的な観点から、微分という操作を考え直す必要がある。
ユークリッド空間にとった直交座標では、基底ベクトルはどこでも同じである。しかしユークリッド空間上の極座標とか、曲がった空間での座標系は、場所によって基底ベクトルの向きや大きさが変わることがある。
たとえば、z軸を地面と垂直に取った場合、日本とブラジルではz軸の向きは真逆になる。そこで、一般の座標系を相手にする場合は、何かのベクトルの変化を調べる際、基底ベクトルの変化も加味して
D\boldsymbol{A}=d( A^{\mu}\boldsymbol{e}_{\mu})=dA^{\mu}\boldsymbol{e}_{\mu}+A^{\mu}d\boldsymbol{e}_{\mu}\tag{3}
というふうにしなくてはならない。
ここで、基底ベクトルの微分\partial _{\nu }\boldsymbol{e}_{\mu }も、4つの基底ベクトルの線型結合でかけるため、その係数を
\partial _{\nu }\boldsymbol{e}_{\mu }=\Gamma ^{\alpha }_{\mu \nu }\boldsymbol{e}_{\alpha }\tag{4}
とおくと、
	D\boldsymbol{A}=\left( dA^{\mu }+\Gamma ^{\mu }_{\nu \lambda }A^{\nu }dx^{\lambda }\right) \boldsymbol{e}_{\mu }\tag{5}
ゆえに成分のみの式を書くことができて、
DA^{\mu}=dA^{\mu}+\Gamma ^{\mu }_{\nu \lambda }A^{\nu }dx^{\lambda }\tag{6}
これを共変微分といい、またこの\Gamma ^{\mu }_{\nu \lambda }をクリストッフェル記号という。この記号は、一見テンソルに見えるが実はテンソルではない(それについては下記で解説する)。とにかく、クリストッフェル記号というのは基底ベクトルの変化の度合いに関係する量であり、したがって重力とも関係してくるはずである(ミンコフスキー空間では、当然全成分ゼロである)。

共変微分係数


	D_{\lambda}A^{\mu}=\partial _{\lambda}A^{\mu}+\Gamma^{\mu}_{\nu\lambda}A^{\nu}\tag{7}

となる。
2階のテンソルに共変微分を施すときは

\begin{split}
	&D_{\lambda}(A^{\alpha}B^{\beta})\\
	&=(\partial _{\lambda}A^{\alpha}+\Gamma^{\alpha}_{\nu\lambda}A^{\nu})B^{\beta}+A^{\alpha} (\partial _{\lambda}B^{\beta}+\Gamma^{\beta}_{\nu\lambda}B^{\nu})\\
	&=\partial_{\lambda}(A^{\alpha}B^{\beta})+\Gamma^{\alpha}_{\nu\lambda}A^{\nu}B^{\beta}+\Gamma^{\beta}_{\nu\lambda}A^{\alpha}B^{\nu} 
	\end{split}
という感じ。

共変微分の別の導入

違う見方で共変微分とクリストッフェル記号を導入してみます。
ローレンツ変換に際して、速度ベクトルの微分

	\displaystyle\frac {du^{\prime\mu }} {d\tau }=\displaystyle\frac{d}{d\tau}\left(\displaystyle\frac{\partial x '^{\mu}}{\partial x^{\nu}}u^{\nu}\right)=\displaystyle\frac{\partial x'^{\mu}}{\partial x^{\nu}}\displaystyle\frac{dx^{\nu}}{d\tau}=\displaystyle\frac{\partial x'^{\mu}}{\partial x^{\nu}}u^{\nu}\tag{8}
と変換し、テンソルの変換則を満たしていた。
しかし一般の座標変換に対しては

	\displaystyle\frac{d}{d\tau }(u^{\mu})=\frac {d}{d\tau }\left(\Lambda^{\mu}_{\nu^{\prime}}u^{\nu^{\prime}}\right) =\left(\partial_{\lambda^{\prime}}\Lambda^{\mu}_{\nu^{\prime}}\right)u'^{\nu}u^{\prime\lambda}+\Lambda^{\mu}_{\nu^{\prime}}\dot{u}^{\nu^{\prime}}\tag{9}

となって右辺第二項が残る。

そこで両辺に\Lambda^{\alpha^{\prime}}_{\mu}をかけて、

	\Lambda^{\alpha^{\prime}}_{\mu}\displaystyle\frac{du^{\mu}}{d\tau}
	= \Lambda^{\alpha^{\prime}}_{\mu}\left(\partial_{\lambda^{\prime}}\Lambda^{\mu}_{\nu^{\prime}}\right)u'^{\nu}u^{\prime\lambda}
	+\displaystyle\frac{du^{\prime\alpha}}{d\tau} \tag{10}


ここで、先の共変微分の式と見比べてみて、


	\Gamma^{\prime\alpha}_{\lambda\nu}= \Lambda^{\alpha^{\prime}}_{\mu}\left(\partial_{\lambda^{\prime}}\Lambda^{\mu}_{\nu^{\prime}}\right)=\displaystyle\frac{\partial x^{\prime\alpha}}{\partial x^{\mu}}\displaystyle\frac{\partial ^{2}x^{\mu}}{\partial x^{\prime\lambda}\partial x^{\prime \nu}}\tag{11}

とすれば、

	\displaystyle\frac{\partial x^{\prime\alpha}}{\partial x^{\nu}}\displaystyle\frac{Du^{\nu}}{D\tau}= \displaystyle\frac{Du^{\prime\alpha}}{D\tau}\tag{12}

というテンソルの変換則が得られた。つまり\displaystyle\frac{Du^{\prime\alpha}}{D\tau}テンソル

1月14日の日記

2限の確率と統計という授業でレポートが出ていたので取り組む。最尤推定法は授業でやったということだったから、パラメータ推定についてフィッシャー情報量を相対エントロピーから導出したあと、この逆行列が共分散行列の下限となること(クラメールラオ不等式)を示し、あとはシャノンエントロピーの定義と意味をちょこちょこと書いて提出した。フィッシャー情報量の意味と相対エントロピーの関係については結局よく理解できずにいる。

 

 

3限の量子力学Cの授業終わりに、ab先生にいくつか質問をする。

 

フェルミオン弦では、弦の振動の生成消滅演算子に反交換関係を課しますが、複数個の同種フェルミオン間に成立する排他律と、一粒子(一個の弦)の内的な振動モードの個数というのは別物ではないですか。QFTにおいてスピノル場の生成消滅演算子を反交換関係で置くのは理解できるのですが。」

「超弦というのはあくまで仮説です。ここでの反交換関係も当然仮説です。そういうものを導入して超対称性を考えるとアノマリーを消せるというだけです。」

 

「カラビヤウ多様体上の位相不変量が粒子の質量を決めるということですが、標準模型に含まれる有質量粒子は全て弦の段階ではmasslessで、ヒッグス機構によって質量を獲得します。カラビヤウ多様体とヒッグス機構はどのような関わりを持つのでしょうか」

「ヒッグス場の性質(自発的対称性の破れが起こるかどうか、など)が、カラビヤウ多様体上の位相幾何学的な性質で決まります。」

 

標準模型の3つの相互作用と重力は、スピン1、スピン2のゲージボソンが媒介しますね。」

「あとヒッグスがスピン0ですね。」

「スピン3以上のボソンが媒介する相互作用がないのは、masslessな第一励起状態のボソン弦が3階以上のテンソル場を作れないから、ということで合ってますか。逆に言うと高エネルギー領域においては、スピン3以上のボソンが媒介し、4つの相互作用のどれにも当てはまらない相互作用がいくつも現れるということですか。」

「それで合っていると思います。」

「ありがとうございます。」

最後の質問、弦理論はあっさりと答えを出してしまったが、標準模型にも回答はあるんだろうか?

 

その後、配属希望を出しているysd研の面接に行く。

志望理由を聞かれたので、素宇宙論の研究室で下積みするくらいなら生物物理で研究をする方が楽しいと思ったから、と答えた。卒研配属の条件を満たしていれば取ってくれるらしい。

 

 

特殊相対論

ローレンツ変換

光速度不変の原理は経験的な直感とは相容れないもので、この原理が見出された歴史的な過程もそれ自体面白くはありますが、今回はそういった議論を全て省いてこれを出発点とします。
光速不変の原理とは、慣性系によって光の速度が変わらないという原理のことです。ゆえに、X系の座標xとX‘系の座標x’の間に

\begin{align}
c^{2}dt^{2}-dx^{2}-dy^{2}-dz^{2}
\end{align}

=c^{2}dt'^{2}-dx'^{2}-dy'^{2}-dz'^{2}\tag{1}

が成立します。
さていま、X’系は、X系に対して、x軸方向に速度vで進んでいるとします。これに対するガリレイ変換は

 (t’,x’,y’,z’)=(t,x-vt,y,z)

なわけですが、これは光速度不変の原理を満たしていません(式(1)を満たさない)。
ではいかに改良すべきか?
dy'=dy,dz'=dz
という仮定はひとまず維持すると、式(1)は
c^{2}dt'^{2}-dx'^{2}
=c^{2}dt^{2}-dx^{2} \tag{2}
となるので、これを満たすような座標変換を求めればよいことになります。

直交座標の変換は線形なので、適当な係数を用いて

t'=At+Bx,  x'=Dx+Et

と書けるはずです。これを式(2)に入れて、 x^{2},xt,t^{2}の係数を見比べれば式が3つ出ますが、一方いま未知数はA,B,D,Eの4つです。足りないのは、当然X\rightarrow X^{\prime}という座標変換を特徴付ける速度vですね。X 系でX^{\prime}系の原点をみればx=vtですが、X^{\prime}系ではこれはx^{\prime}=0を意味しますから、座標変換でx-vt=0 \rightarrow x'=0と変換しなくてはいけません。これを適当に定数倍すれば

x'=D(x-vt)

と書けそうです。これで、未知数が3つに減ったので、全ての係数を求めることができます。

すると、結局座標変換は

\begin{cases}
t'=\dfrac {t-\dfrac {v}{c^{2}}x}{\sqrt {1-\left( \frac {v}{c}\right) ^{2}}}\\
\\
x'=\displaystyle \frac{x-vt}{\sqrt {1-\left( \frac {v}{c}\right) ^{2}}}
\end{cases}

という形をしていることが導かれました!これをローレンツ変換といいます。

そしてこれは、座標間の速度vが光速cに比べ十分小さいときには

\begin{cases}
x'=\displaystyle \frac{x-vt}{\sqrt {1-\left( \frac {v}{c}\right) ^{2}}}\approx x-vt\\
\\
t'=\dfrac {t-\dfrac {v}{c^{2}}x}{\sqrt {1-\left( \frac {v}{c}\right) ^{2}}}\approx t
\end{cases}

となり、ガリレイ変換を再現します。つまり、この世界で本当に正しいのはローレンツ変換であるものの、これまでは座標間の速度が小さかったので、ガリレイ変換で事足りていたというです。

相対性原理

ミンコフスキー空間

光速不変の原理を満たすような座標変換は、3次元空間でのガリレイ変換(x,y,z)→(x',y',z')ではなく、4次元時空でのローレンツ変換(ct,x,y,z)→(ct',x',y',z')であることが分かりました。そこで、(ct,x,y,z)という4次元の空間を考えてみるのは自然でしょう((x,y,z)と次元を合わせるため、時間座標をtでなくctとした)。この4次元時空をミンコフスキー空間という。
さて、このような新しい空間に対して、手始めに距離の公式を考えてみます。
素朴な発想では、原点から(cdt,dx,dy,dz)だけ離れた点までの距離dsは、ユークリッド空間にならって

 ds^{2}=c^{2}dt^{2}+dx^{2}+dy^{2}+dz^{2}

でよいのではないかと思いますが、実はこれはボツです。なぜかというと、見る座標系によって距離が変わってしまうからですね(ローレンツ不変でないということ)。相対論の本質とは、どこまでいっても座標変換での不変性!
思い出してみれば、ユークリッド空間での距離はガリレイ変換で不変なのでした:

dx^{\prime 2}+dy^{\prime 2}+dz^{\prime 2}=dx^{2}+dy^{2}+dz^{2}

たしかにこれはガリレイ不変ではあるが、当然ローレンツ不変ではない。ミンコフスキ時空では、ローレンツ変換に対して不変になるように距離の公式を定めるべきです。
ではどうすればローレンツ不変な距離公式が定められるのか?そこで便利なのが固有時という概念です:
X^{\prime}系の原点に粒子がありそこに静止しているとする。このような系を粒子の静止系といい、この静止系における時間座標のことを(粒子の)固有時といって\tauで表します。ローレンツ変換の式に従えば、いまdx=vdtだから、
 cd\tau=\displaystyle\frac{-\beta dx}{\sqrt{1-\beta^{2}}}
=\displaystyle\frac{\beta^{2}dt}{\sqrt{1-\beta^{2}}}=\sqrt{c^{2}dt^{2}-dx^{2}}

ゆえに

c^{2}d\tau^{2}

=c^{2}dt^{2}-dx^{2}

=c^{2}dt'^{2}-dx'^{2}

これはローレンツ変換で不変な値となっている。なのでこれをミンコフスキ空間の距離の公式とすれば良さそうです。いまはdy=dz=dy^{\prime}=dz^{\prime}としていましたが、そうではない場合にはそうではない場合には

c^{2}d\tau^{2}

=c^{2}dt^{2}-dx^{2}-dy^{2}-dz^{2}

=c^{2}dt'^{2}-dx^{\prime 2}-dy^{\prime 2}-dz^{\prime 2}

とすればいいです。

そもそもローレンツ変換というのは、光速度不変の原理から要請されたものであったから、上のような形をしていることは至極真っ当(本稿冒頭の式を参照)。

テンソル

特殊相対論での数学といえばテンソルですが、これは相対性原理と相性の良い道具です。そこでその性質と計算を簡単に述べます。以降、(x^{0},x^{1},x^{2},x^{3})=(ct,x,y,z)という書き方をします。こうすると、たとえば ds^{2}=(dx^{0})^{2}-(dx^{1})^{2}-(dx^{2})^{2}-(dx^{3})^{2}= (dx^{0})^{2}-\sum_{i=1}^{3} (dx^{i})^{2} と書けて便利です。

さてここで、(dx^{0},dx^{1},dx^{2},dx^{3})だけ離れた二つの世界点の間のベクトルを

\boldsymbol{x}=\sum_{\mu=0}^{3}dx^{\mu}\boldsymbol{e}_{\mu}

というふうに表してみる。本稿ではアルファベットの添字は1,2,3を走り、ギリシャ文字の添字は0,1,2,3を走ることにします。 さて、同一のベクトルを異なる座標系で見ても、同じものを見ているのだから

d\boldsymbol{x}\prime=d\boldsymbol{x}

となるはずです。しかしそれでも、成分dx^{\mu}と基底ベクトル\boldsymbol{e}_{\mu}はそれぞれ座標変換で変わる。 基底ベクトルは

\boldsymbol{e}_{\mu}=\displaystyle\frac{\partial \boldsymbol{x}}{\partial x^{\mu}}

と表せるから、偏微分の連鎖律より、

\boldsymbol{e}_{\mu}^{\prime}=\displaystyle\frac{\partial x^{\nu}}{\partial x^{\prime\mu}}\boldsymbol{e}_{\nu}

と変換します。この座標変換を逆に見れば、当然

\boldsymbol{e}_{\mu}=\displaystyle\frac{\partial x^{\prime\nu}}{\partial x^{\mu}}\boldsymbol{e}_{\nu}^{\prime}

も成り立っていて、これと式(15)から

 dx^{\prime\mu}=\displaystyle\frac{\partial x^{\prime\mu}}{\partial x^{\nu}}dx^{\nu}

という変換則もわかります。この二つの変換則に従う量はベクトルと呼ばれます、一方ds^{2}のようにどの座標系で見ても値の変わらない量をスカラーといいます。上の式を用いると

ds^{2}=d\boldsymbol{x}\cdot d\boldsymbol{x}=\sum_{\mu=0}^{3} \sum_{\nu=0}^{3}\boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}dx^{\mu}dx^{\nu}

これと先の式を比べると、

\boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}= \begin{cases} 1 & (\mu=\nu=0)\\ -1 & (\mu=\nu=1,2,3)\\ 0 & それ以外 \end{cases}

となってます。そこで、計量テンソルと呼ばれる次のような量を定義しましょう。

g_{\mu\nu}=\boldsymbol{e}_{\mu}\cdot\boldsymbol{e}_{\nu}

これがベクトルとベクトルの内積を決めるため、計量と呼ばれます。実は一般相対論を学ぶと、この計量が重力のポテンシャルとしての意味を担うことが分かります。

さて、座標変換の際の種々の変換則を書くと

 {\partial_{\mu}}'=\displaystyle\frac{\partial x^{\nu}}{\partial x'^{\mu}}\partial_{\nu} \boldsymbol{e}'_{\mu}=\displaystyle\frac{\partial x^{\nu}}{\partial x'^{\mu}}\boldsymbol{e}_{\nu} dx'^{\mu}=\displaystyle\frac{\partial x'^{\mu}}{\partial x^{\nu}}dx^{\nu}

というように変換しますね。上二つと下一つは互いに異なった変換をしているので、それぞれ共変、反変と呼んで両者を区別します。 ではなぜ、反変と共変という二つの変換則があるのか?

g'_{\mu\nu}= \displaystyle\frac{\partial x^{\alpha}}{\partial x'^{\mu}} \displaystyle\frac{\partial x^{\beta}}{\partial x'^{\nu}}g_{\alpha\beta}

テンソルの何が嬉しいか、何がすごいのか

テンソルというのは添字がいくつもあって複雑な量にも見えますが、なぜこんなものを考えるのか。実はこのテンソルを使うと、相対性原理を満たすように方程式を書くことができます。その際に先の変換則が重要な役割を果たします。たとえばいま、ある座標系xで、なんらかの方程式を A_{\mu\nu}=B_{\mu\nu} というテンソル方程式で書けたとします。これは運動方程式でもマクスウェル方程式でもなんでもいいんですが、とにかく両辺がテンソルで書かれている。 さてこの式は C_{\mu\nu}=A_{\mu\nu}-B_{\mu\nu}=0 という形にも書ける。 実はもうこの時点で、相対性原理が成立するのはほとんど自明になっているんです。というのは、いま別の座標系x'でのこのテンソルC'_{\mu\nu} とすれば、テンソルの変換則より

C_{\mu\nu}^{\prime}=\displaystyle\frac{\partial x^{\alpha}}{\partial x^{\prime\mu}}\displaystyle\frac{\partial x^{\beta}}{\partial x^{\prime\nu}}C_{\alpha\beta}

となりますが、x系ではC_{\mu\nu}は全成分ゼロなのだから、それをいくら足し合わせてもゼロである。つまり C_{\mu\nu}^{\prime}=0 がほとんど自動的に成り立ちます。これを先のX系での式と比べてみれば、全く同じ形で方程式が成立していることが一目瞭然となっています。これがテンソル算法の威力です。

ではテンソルをつかった具体例として、古典電磁気学を考えてみます(ここを読み飛ばしても、それ以降を読み進めるのに問題はない)。

電磁気学の方程式をテンソルで書いてみる

マクスウェル方程式や、ローレンツ力の式は、テンソルで書くとどのようになるのか?
まずマクスウェル方程式のうち、

\nabla \cdot \boldsymbol{B}=0

\nabla \times \boldsymbol{E}+\displaystyle\frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}=\boldsymbol{0}

テンソル形式で書き直します。これにはスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルを用いると便利です。

A^{0}=\displaystyle\frac{\phi}{c}

とすれば、


\boldsymbol{B}=\nabla \times \boldsymbol{A}

=\begin{pmatrix}
\partial_{2}A^{3}-\partial_{3}A^{2}\\
\partial_{3}A^{1}-\partial_{1}A^{3}\\
\partial_{1}A^{2}-\partial_{2}A^{1}
\end{pmatrix}

\begin{pmatrix}
\partial_{3}A_{2}-\partial_{2}A_{3}\\
\partial_{1}A_{3}-\partial_{3}A_{1}\\
\partial_{2}A_{1}-\partial_{1}A_{2}\\
\end{pmatrix}

\boldsymbol{E}=-\nabla\phi-\displaystyle\frac{\partial \boldsymbol{A}}{\partial t}

=-c\begin{pmatrix}
\partial_{1}A^{0}+\partial_{0}A^{1}\\
\partial_{2}A^{0}+\partial_{0}A^{2}\\
\partial_{3}A^{0}+\partial_{0}A^{3}
\end{pmatrix}

= c\begin{pmatrix}
\partial_{0}A_{1}-\partial_{1}A_{0}\\
\partial_{0}A_{2}-\partial_{2}A_{0}\\
\partial_{0}A_{3}-\partial_{3}A_{0}\\
\end{pmatrix}

と書ける。両者似た形をしていますから、

F_{\mu\nu}=\partial_{\mu}A_{\nu}-\partial_{\nu}A_{\mu}

という量を導入すると

\boldsymbol{B}
=\begin{pmatrix}
F_{32}\\
F_{13}\\
F_{21}
\end{pmatrix}

\boldsymbol{E}=c\begin{pmatrix}
F_{01}\\
F_{02}\\
F_{03}
\end{pmatrix}

であり、定義より、F_{\mu\nu}=-F_{\mu\nu}であることがすぐわかるから、

F_{\mu\nu}=\begin{pmatrix}
F_{00}&F_{01}&F_{02}&F_{03}\\
F_{10}&F_{11}&F_{12}&F_{13}\\
F_{20}&F_{21}&F_{22}&F_{23}\\
F_{30}&F_{31}&F_{32}&F_{33}\\
\end{pmatrix}

F_{\mu\nu}=\begin{pmatrix}
0&E^{1}/c& E^{2}/c& E^{3}/c\\
\text{-}E^{1}/c&0&-B^{3}&B^{2}\\
\text{-}E^{2}/c&B^{3}&0&-B^{1}\\
\text{-}E^{3}/c&-B^{2}&B^{1}&0
\end{pmatrix}

ちなみに、添字を上げると

F^{\mu\nu}=\begin{pmatrix}
0&-E^{1}/c& -E^{2}/c& -E^{3}/c\\
E^{1}/c&0&-B^{3}&B^{2}\\
E^{2}/c&B^{3}&0&-B^{1}\\
E^{3}/c&-B^{2}&B^{1}&0
\end{pmatrix}

こうして、電場と磁場は2階のテンソルになることがわかった(ベクトルではない!)。この時点で、先の二式はすでに満たされている。
残りの二式は

\nabla \cdot \boldsymbol{E}=\displaystyle\frac{\rho}{\epsilon_{0}}

\nabla \times \boldsymbol{B}-\displaystyle\frac {1} {c^{2}}\displaystyle\frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}=\mu_{0}\boldsymbol{i}

これらをfを用いて書き直すと、それぞれ

\partial _{i}F^{i0}=\mu _{0}\rho c

\partial _{i}F^{ik}=\mu _{0}i^{k}

となるので、j^{\nu}=(\rho c,j^{1},j^{2},j^{3})とすれば、

\partial_{\mu}F^{\mu\nu}=\mu_{0}j^{\nu}

というふうに書ける。
最後は運動方程式(ローレンツ力の式)。

m\ddot{\boldsymbol{r}}=e\boldsymbol{E}+e\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}

\begin{pmatrix}
E^{1}+v^{2}B^{3}-v^{3}B^{2}\\\
E^{2}+v^{3}B^{1}-v^{1}B^{3}\\\
E^{3}+v^{1}B^{2}-v^{2}B^{1}
\end{pmatrix}

=e\begin{pmatrix}
cF^{10}-v^{1}F^{11}-v^{2}F^{12}-v^{3}F^{13}\\
cF^{20}-v^{1}F^{21}-v^{2}F^{22}-v^{3}F^{23}\\
cF^{30}-v^{1}F^{31}-v^{2}F^{32}-v^{3}F^{33}
\end{pmatrix}

ここから、テンソルの方程式として

 m \displaystyle\frac{d^{2}x^{\mu}}{d\tau^{2}}=eg_{\nu\lambda}v^{\nu}F^{\mu\lambda}

と想像できる。

相対論的力学

ニュートン力学ガリレイ不変な力学であった。ではローレンツ変換で不変な力学はどのようなものになるか?これは実はそんなに難しいことではないのですが、いわゆるE=mc^{2}の式が出てきたりして、色々面白いです。
まず、運動方程式ローレンツ変換で形を変えないということは、各種物理量(運動量、エネルギー、角運動量)はテンソル量とならなければいけません。

p^{\mu}=m\displaystyle\frac{dx^{\mu}}{d\tau}

は、ローレンツ変換に対してテンソルとして振舞います。

p'^{\mu}= m\displaystyle \frac{dx^{\prime\mu}}{d\tau'}

= \displaystyle\frac{\partial x'^{\mu}}{\partial x^{\nu}}m\displaystyle\frac{dx^{\nu}}{d\tau}

= \displaystyle\frac{\partial x'^{\mu}}{\partial x^{\nu}}p^{\nu}

ローレンツ変換では、\displaystyle\frac{\partial x'^{\mu}}{\partial x^{\nu}}は時間に依存しない定数です。
こうすることで、テンソルとしての運動量を得られました。もちろんvが小さいときには、たとえばこれの第3成分(z成分)を見ると

 p^{3}=m\displaystyle\frac{dz}{d\tau}\approx m\displaystyle\frac{dz}{dt}

となり、ニュートン力学での運動量と一致しています。d\tau=\sqrt{1-\beta^{2}}dt\approx dtという近似)。

エネルギー

さあ、ここで疑問になるのはこの運動量の第0成分である:

 p^{0}=mc\displaystyle\frac{dt}{d\tau}


=\displaystyle\frac{mc} {\sqrt {1-\left( \displaystyle \frac {v}{c}\right) ^{2}}}

一体これは何なのかよくわからないから、ニュートン力学に何かヒントがないか探してみよう。vが光速cに対して小さいとして近似を取ると、

\displaystyle\frac{mc} {\sqrt {1-\left( \displaystyle \frac {v}{c}\right) ^{2}}}\approx mc\left(1+\displaystyle\frac{1}{2}\left(\displaystyle\frac{v}{c}\right)^{2}...\right)

これの第二項は、まさにニュートン力学の運動エネルギーの形をしている。つまり、特殊相対性原理を満たすためには、エネルギーの考え方を改めなくてはならないのである!

まとめ

光速不変の原理を満たすためには、慣性系間の座標変換はガリレイ変換ではなくローレンツ変換でなければならない。ガリレイ変換のときは、変換の前後でも時計の進む度合いは変わらなかったが、ローレンツ変換に対しては時計の進み方が変わる。つまり慣性系によって時間の進みも異なるため、時間はもはや単なるパラメータではなく、各慣性系を特徴付ける一種の力学的な量といえる。
つづいて、どの慣性系も同等である(特別な慣性系は存在しない)という特殊相対性原理に基づき、ローレンツ変換に際して運動方程式が変わらないように力学を再構築してみると、静止している物体にもエネルギーにもあることが要請された。

相互作用を担うゲージ粒子についての疑問

現代物理学で扱われる4つの相互作用には、それぞれ伝達を担うゲージ粒子がある。グラビトンは重力を伝えるし、光子は電磁気力を伝える。

 

これに関連して2つの疑問がある。

 


(1)スピン相互作用を伝えるゲージ粒子は何か

 


いま2つのフェルミオンを用意する。はじめそれらの間には一切の相互作用を遮断する壁がある。この段階では排他律は働かないから、両方のスピンの向きを揃えることができる。そしてある時刻にその壁を外すとする。しばらく時間が経てば、排他律により両方のスピンは別々の向きを向く。これは、時刻Tに壁が外れてから両者の情報が互いの元に到達したために排他律が効き始めたと考えられるが、一体何がそれを伝えているのか?

 


(2)ブラックホールはどのようにして電磁場、重力場を形成するのか

 


ブラックホールは、質量M・電荷Q・角運動量Lの自由度を持つ。ゆえに電磁場や重力場を形成しうるわけだが、M,Q,Lを担う物質が事象の地平面の内部にあるとしたら、地平面からはどんなものも抜け出せないわけだから、当然内部から外部に力を伝えることも不可能なはず。どのようにして力を伝えるのか?

特異点研究会に行ってきます

2019年も終わりです。結局ほとんどブログ更新できませんでしたorz

 

 

26日から28日まで、秋田で行われる特異点研究会なるものに参加してきます。ここでいう特異点というのはいわゆる時空の特異点というやつで、曲率とか物質密度が無限大になるような点のことです。この研究会は今年で20回目だそうで、各地で持ち回りでやってるそうでした。僕は特異点のことほとんど何も知らずノリで申し込んでしまいましたが、研究会では情報理論的な観点からもいくつかスピーチがあるみたいで、楽しみにしています。感想とか書こうと思います。

 

前期の講義で、情報理論が熱統計力学と関係があることを知りましたが、まさか重力とも関わりがあるとは想像すらしていませんでした。最近はそういうところに興味があって『量子系のエンタングルメントと幾何学』(松枝さん)とか『ホログラフィ原理と量子エンタングルメント』(高柳さん)などを少しずつ読んでます。

 

生物物理にも、何かしらAdS/CFTが役に立てるような場面があったら面白いんですが。

 

 

量子論の歴史5 正準交換関係の導出

ハイゼンベルグの考え

ボーア理論における問題解決の手順は、「まず古典論で解く→そのうち量子条件を満たすもののみを選ぶ→対応原理で翻訳する」という流れであり、初手が古典的なためある意味中途半端な理論だった。ハイゼンベルグは、ボーア理論よりさらに進んで、はじめの定式化自体を量子論的に扱えるような方法を考えた。つまり、量子条件そのものに対応原理を適用するのである。

 

置き換えの規則

量子条件を書き換えるまえに、必要な道具の準備をする。

半古典的なレベルにおいて、一般の物理量を

 f_{n}(t)=\sum_{\tau}F_{n}(\tau)e^{i\tau\omega_{n}t}

フーリエ展開する。nは軌道の量子数を表すものである(fは例えば位置座標などである)。この成分F_n(\tau)は、古典的な\tau番目の高調波を意味する。一方この発光は、量子論でいうと遷移n\rightarrow n-\tauの際に出る光に対応しているので、

F_{n}(\tau)\rightarrow F_{n,n-\tau}

という置き換えができる。

 

そして前回の記事のように、微分は差分に置き換える:

 

\tau\displaystyle\frac{\partial F_{n}}{\partial n}\rightarrow F_{n+\tau}-F_{n}

 

これら二つの変換を合わせると、

 

\tau\displaystyle\frac{\partial F_{n}(\tau)}{\partial n}\rightarrow F_{n+\tau}(\tau)-F_{n}(\tau)\rightarrow F_{n+\tau,n}-F_{n,n-\tau}

 

という対応が見て取れる。この置き換えは、古典論的な世界から量子論的な世界へと移るために必要な鍵である!

正準交換関係を導出する!

さて、このような置き換えを量子条件に適応すると何が起こるかを見ていく。

まず位置座標をフーリエ展開すると

x_{n}\left( t\right) =\sum _{\tau =-\infty }^{\infty }X_{n}\left( \tau \right) e^{i\omega _{n}(\tau)t}

であり、ここで位置が実数であることから

X_{n}(\tau)^{\ast}=X_{n}(-\tau)

が条件として成立している(これは、xがエルミートであることを意味している)。

 

一方で運動量は

 

p_{n}\left( t\right) =m\dot{x}_{n}(t)

 

=m\sum _{\tau =-\infty }^{\infty }i\omega_{n}(\tau)X_{n}\left( \tau \right) e^{i \omega _{n}(\tau)t}

 

=\sum _{\tau =-\infty }^{\infty }P_{n}\left( \tau \right) e^{i \omega _{n}(\tau)t}

 

となる。

これらを使うと、ボーアの量子条件は、

\oint p_{n}dx_{n}=\int_{0}^{\frac{2\pi}{\omega_{n}}}\dot{x}_{n}(t) p_{n}(t)dt

=\sum_{\tau=-\infty}^{\infty} \sum_{\tau'=-\infty}^{\infty}i\tau'\omega_{n}X^{\ast}_{n}(-\tau') P_{n} (\tau)\int_{0}^{\frac{2\pi}{\omega_{n}}}e^{it\omega_{n}(\tau+\tau')}dt

 

= -2\pi i\sum _{\tau =-\infty }^{\infty }\tau X^{\ast}_{n}(\tau)P_{n}(\tau)=nh

つまり

 

\sum _{\tau =-\infty }^{\infty }\tau X^{\ast}_{n}(\tau)P_{n}(\tau)=ni\hbar

 

この両辺を$n$で微分し、ハイゼンベルグの置き換えの規則

\tau \displaystyle\frac{\partial F_{n}(\tau)}{\partial n}\rightarrow F_{n+\tau,n}-F_{n,n-\tau}

 

を用いれば、

 

ば、

\sum _{\tau =-\infty }^{\infty }(X^{\ast}_{n+\tau,n}P_{n+\tau,n}-X^{\ast}_{n,n-\tau}P_{n,n-\tau})=i\hbar

 


となり、これは

\sum _{m=1 }^{\infty }(X_{n,m}P_{m,n}-P_{n,m}X_{m,n})=i\hbar

という形に書き直せる。これはまさに行列の計算規則である!非対角成分がゼロになることもすぐに示せる。ゆえに、ハットで行列を表すことにすれば

 

\hat{x}\hat{p}-\hat{p}\hat{x}=i\hbar \hat{1}

と書ける。\hat{1}単位行列である。これはまさに、我々が見慣れた交換関係である!正準交換関係は、歴史的には行列の交換関係として初めて与えられた。

5回に渡る記事で、導出したかった式がようやく出せた。

 

 


運動方程式としては、正準方程式をそのままの形で使う。

\displaystyle\frac{d\hat{x}}{dt}=\displaystyle\frac{\partial \hat{H}}{\partial \hat{p}}, \displaystyle\frac{d\hat{p}}{dt}=-\displaystyle\frac{\partial \hat{H}}{\partial \hat{x}}

すると、xpの関数である一般の物理量の演算子に対して

\displaystyle\frac{d\hat{A}}{dt}=\displaystyle\frac{i}{\hbar} \lbrack \hat{H},\hat{A}\rbrack

が成立していることがわかる!これをハイゼンベルグ運動方程式という。

 

量子論の歴史4 対応原理

原子からの光の射出について、古典的な説明とボーア理論による説明は一見したところ全く異なっていた。 射出される光の振動数は、古典的には

\omega_{n}=\displaystyle\frac{2\pi }{T}n

で与えられるのに対し、ボーア理論では

 \omega\propto\left(\displaystyle\frac{1}{m^{2}}-\displaystyle\frac{1}{n^{2}} \right)

で与えられる。後者は実験事実とよく合致していた(リュードベリの式)。

この違いをどう捉えるかというのは極めて重要である。まず、新しい理論は古い理論を包含しているはずだから、ボーアの式は適当な近似を取れば古典的な振動数に近づくはずである。実際、n\rightarrow n+\tau, \quad n>>\tauという遷移を考えると、

\omega =\displaystyle\frac{me^{4}}{2\hbar^{2}}\left(\displaystyle\frac{1}{(n-\tau)^{2}}-\displaystyle\frac{1}{n^{2}}\right)\approx \left( \displaystyle\frac{me^{4}}{\hbar^{2}n^{3}}\right)\tau

となり、たしかに古典的な式を再現している。

このように、両者の発光の機構は互いに異なるものの、量子数nが大きい古典的な領域では同じ結果を与えることが分かる。

また、この結果は次のように考えることもできる。

nが小さい領域というのは、まだ未知の領域ではあるが、そこでは種々の量が離散的になるということだけは分かっている。故に、光の振動数は差分的な式で与えられている。一方で古典論というのは連続的な領域であるから、この差分の式は近似的に微分で置き換えられる。これは一言で言えば、

新理論 : 古典論 = 離散的 : 連続的 = 差分的 : 微分

という対応が成立しているということである。そこでこれを逆手にとって、古典的には微分で記述されている種々の量を、差分的なものに置き換えていくことで、新しい理論が得られるのではないかと考えることもできる。このような置き換えのもとで、ハイゼンベルクは正準交換関係 \lbrack x,p \rbrack =i\hbarを導いた。